秋季集会1日目、11月8日15:30〜18:00、鹿児島大学を会場に、平和教育プロジェクト委員会による平和教育ワークショップが開催された。ワークショップのタイトルを「平和な関係性をつくろう!〜新しい平和教育のあり方を一緒に模索する〜」とし、ワークショップの対象を、日本平和学会会員以外に、鹿児島の市民、特に現場の教師・生徒・学生を設定した。総勢12名のメンバーを得て、こじんまりとした豊かなひと時が持たれた。
ワークショップの内容を設定するにあたり、委員会では次のような問題意識を共有した。学校・教室において、また社会運動の現場において、われわれは常に平和的な関係性を模索するものの、ともすれば支配的・独善的になったり、あるいは情報の伝達のみに終始してしまったりする。われわれの日々の営みにおいて、豊かで相互に助け合う関係性が如何に可能になるのか、「現場」を意識しながら共に考える機会を設定する。用いる手法は、紛争解決や非暴力的なコミュニケーションの分野でよく活用されているメソッドの数々であり、現場でのさまざまな場面に役立つノウハウや、態度養成につながると想定した。
ワークショップの形式については、参加者どうしが、ファシリテーターと一緒になって対話しながら進める学びの一つの形とし、参加者一人ひとりの体験や考え、そしてニーズを丁寧に聞き取り、確固たる形で構成するのではないゆるやかなスタイルで共有しながら、上記の内容について模索するとした。
まず、委員会の目的や今回のワークショップの目的を説明し、参加者の構成を確認、自己紹介を行った。さらに、身体を温めるための「ポガ」を行った。地元からの参加者は2人、その他は日本各地からの学会参加者であった。「地元の市民社会に学会の知見を還元する」ことが目的である当委員会としては、今後の広報の方法等検討課題が多い。ともあれ、今回のワークショップにおいては、参加者各自の「現場」でのニーズを聞くところから始めることとした。ワークショップ企画・提供側の傲慢な態度―押し付け―になることを避けるためである。アレキサンダー委員が企画する「ポーポキ・プロジェクト」の紹介から始まり、「今の平和教育等の現場の安心・安全度」をテーマに、どういった課題をわれわれが現場で抱えているのかを、ロープワークを用いて模索した。
さらに、各自の現場で安心できるためには何が大事かを、3つのグループに分かれて話し合った。多様性、自由、仲間、柔軟性、客観性と主観性、勇気、共感、想像力、対立する意見を聴くこと、会話を続けること、留学生の視点、政治との関連を考えること、心の健康、健全な関係性、敵対する人々との交流、などさまざまなキーワードが立ち現れた。
短い休憩の後、上記で見えてきた要素を用いて柔軟にワークに入る。一日の終わりの時間帯で参加者も少々疲れ気味であったこともあり、企画段階で少し考えていた紛争解決の手法そのものを用いることよりも、イメージシアターやフォーラムシアターの手法を用いることにした。身体的動きを活用し、言語化することも行いながら、対話形式で応答しあっていく方法である。「多様性の拒否/受容」について身体表現する試みを実施した。
「多様性を排除する」イメージとは何かを2つのグループに分けてそれぞれに創造してもらう。グループAの「作品」をグループBが「鑑賞」し複数のタイトルを提案する。同じく、グループBの「作品」をAが同様に鑑賞する。その後、グループAの静態的作品を、「より多様性が許容される」イメージに、10を数える間にゆっくりとトランスフォームしてもらう。そのイメージをめぐり、Bのメンバーと共に丁寧に対話を重ねていく。さらに10を数えイメージをさらにトランスフォームする。Bの作品も同様にプロセスを重ねていく。
ワークが終わった後、全員が円になって座り、自由な対話を続けた。理性的に考え議論することは平和教育においては大変重要であるが、同時に、身体が動くことによって感情が動き、そこから見えることがあること、また、その瞬間は自身では認識していないことも、しばらくたって見えることがあること。ふだん自分が言葉にしないが感じていたことが明らかになったような気がした、など。また、こういったワークショップは何人までを対象とすることができるのか。大学ではまた話が違うかもしれないが、小中高などの学校現場では、実際のクラスメートどうしの関係性がワークの中に投影され、「多様性を排除する」ことなどを否定的な形で「学習」する危険性はないか、など。さまざまな意見や質問を出し合い応答し合う中で、平和教育の現場でわれわれがかかえる課題がいくつか顕在化したように思う。
今回のワークショップを企画・実践するにあたり、いくつかの課題が浮上した。平和教育や平 和運動の現場において、私たちが「いつも平和的な関係性を模索」しているわけ ではない面もあることを、あらためて確認できた。参加者の大多数は ワークショップの主旨を理解した上で参加していたが、委員会がターゲット としていた「現場」の参加者のニーズは、むしろ平和についての知識であったかもしれない。「毎日の営みにおいて豊かで相互に助け合う関係性」を平和の問題と して捉えられていないのがいわゆる「現場」の現実なのかもしれない。
ただ、12人で行った小さなWSではあったが、全体的にそれなりにほとんどストラクチャーせずに臨んだWSの試み、その場のニーズを模索しながら進めるという試み、としては興味深いものとなった。大学での講義展開をテーマにした午前の自由論題部 会と併せて、学びの場作りの多様性を模索することができた。ただ、さまざまな場面に役立つノウハウや、態度養成につながるものをどれだけ提 供できたか、という点については、個々の参加者が持 ち帰るものであろう。それぞれの現場で何か今後につながる展開があれば嬉しい。
また、同時に開催されている部会(や分科会)がどんなに魅力的であっても、なんとか人を引き付ける工夫が必要と痛感した。今後の広報のありかたとしては、学会が開催される地域社会に対しては、地域の理事や会員のネットワークを用いて市民社会への働きかけの協力をお願いしたい。学会内部では、開催内容をプログラムそのものにしっかりと掲載してもらう。さらに、当日の学会会場においてはポスターを掲示し、学会参加者がリマインドされるように工夫する必要がある。各方面の皆さんのご協力をお願いしたい。
第21期 平和教育プロジェクト委員長
奥 本 京 子