大会テーマ「ポストコロナ時代における地球平和実現に向けての多元的取組」
2020 年 11 月 7 日 (土)・8 日 (日)
オンライン開催
開催趣旨
2019年末に中国で発生した新型コロナウイルスの世界的流行は、グローバル化の負の影響と格差の問題を浮き彫りにした。グローバル化によりヒトとモノの移動が飛躍的に増加し、利便性も経済も大きく向上、発展したが、それはウイルスのようなリスクを世界に一気に拡散させる副作用と表裏一体であることが顕わになった。そして、その負の影響は、とりわけ弱者や貧困層に重くのしかかった。適切な治療を受けることができず重症化・死亡したのも、ロックダウン(都市封鎖)で職を失い、路頭に迷ったのも、多くは貧困層である。他方、コロナが深刻化した2020年3月から5月の3カ月間で、アメリカの富裕層の資産は5650億ドル(約62兆円)増え、富裕層全体では資産が19%増加した。この格差を「犯罪的」と呼ばずして、なんと形容することができようか。
グローバル化の負の影響は感染症だけではない。2018年に気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、このままいけば、早ければ2030年に地球の平均気温が産業革命前と比べて1.5℃上昇することを発表した。それは、かつてないほど巨大な台風、洪水、高波、海面上昇、熱波、干ばつ、食糧不足、感染症の蔓延などにより、この先人類が生存できるかどうかわからない状態に突入することを意味している。そして、最初にその犠牲になるのは社会的弱者や貧困層であることは言うまでもない。
感染症、気候変動、格差・貧困などの地球規模課題を解決するためには、異次元の国際協力が必要となる。しかし、現実にはアメリカと中国は貿易やWHO(世界保健機関)などをめぐって鋭く対立し、世界では排他的なポピュリズムが台頭し、国際協調ではなく「自国ファースト」が基調となっている。それどころか、シリア、パレスチナ、アフガニスタン、イエメン、コンゴ民主共和国、南スーダン、西サハラ、ミャンマー(ビルマ)などでは、いまだに武力紛争が続いていて、解決の糸口さえつかめていない。2017年に核兵器禁止条約が締結されたものの、米ロを始めとする核保有国のみならず、被爆国の日本さえも条約に参加していないため、現状のままでは核兵器の廃絶は容易ではない。
人類の生存が脅かされ、犯罪的なまでに格差が拡大し、紛争も核兵器もなくならない絶望的な世界において、いかにして持続可能で平和な世界を創造することができるのであろうか。この問いに対する答えなどないかもしれない。しかし、日常の生活レベルからローカル、ナショナル、リージョナル、そしてグローバルの各レベルで、理論的かつ実践的に、構造的暴力に立ち向かう多様で多彩な取組みを、あきらめずに続けていくこと、そしてそれらが縦横無尽に連携して力を大きくしていくことこそが、一筋の希望の光となるのではなかろうか?
そこで、本研究集会は、「足もと」の労働と平和という生活・ローカルレベルから、アフリカの紛争と開発というリージョナルレベル、そして地球規模課題を解決するためのグローバル・ガヴァナンスというグローバルレベルまで射程を広げる。さらに、非暴力や市民による抵抗、平和教育や市民教育、「原爆被害」の語りという多様な方法論も合わせて議論を深めることで、平和の実現のための多様かつ多次元の理論と実践を深く理解できる機会としたい。そして、そのような研究と実践に日夜取り組んでいる方々が一堂に会して相互に交流し、学びあい、多彩なつながりが築かれ、希望の輪が広がることを願いたい。
開催校理事 上村雄彦
11月7日(土)
9:00-11:30 部会1(23期広報委員会企画)
ラウンドテーブル
「足もと」の労働と平和——大学における非正規雇用研究者の現実から平和を考える
今日、労働者を取り巻く暴力構造は強化され、さらに同じ労働者の間にも、正規雇用と非正規雇用をはじめとした多様な格差や分断が存在する。こうした問題は平和学会にとっても他人ごとではない。なぜなら多くの平和学会員が所属する大学、そして学会という場も、非正規雇用者に支えられている現状にあるからだ。
こうした問題意識を背景として第23期広報委員会は、実態把握を目的として会員対象のアンケートに取り組んできた。さらに会員内の情報共有を目的とした「若手及び非正規雇用研究者問題を考えるフォーラム」を4回にわたり開催してきた。取り組みを通じて浮かび上がってきたのは、当事者の切実な現状と要求、そして非当事者の無理解や無関心である。
平和学会に所属するわたしたちが、この「足もと」にひろがる平和ならざる状態を脇におきつづけていいのだろうか。平和学とは、平和ならざる状況におかれた人びとの、被害者としての立場を尊重し、みずからが加害者にならないよう批判的な視点をもち、暴力を克服し、平和に向けた知を蓄積していくことを目指す学問である。日本平和学会の設立趣意書も、そうした志向性を明確に示している。
本部会では、大学に留まらない正規雇用と非正規雇用をはじめとした多様な格差や分断と、その背景にある経済社会構造を射程に収めつつ、大学や学会という学会員の多くにとって身近な場所で、語ることのできない暴力、沈黙をもって受け止められてきた暴力、不可視化される暴力に目を向けて、大学における非正規雇用研究者問題を考えていきたい。
通常の部会の形式にこだわらず、多彩な表現方法をもちいて、当事者だけではなく、非当事者の視点や学会外の視点も入れて、ラウンドテーブル方式で垣根を超えた議論を展開していく。
これらを通じて、わたしたちが「足もと」に内包してしまっている暴力構造に向き合い、当事者を孤立させず、学会員の間の意識共有をはかり、学会という場を通してわたしたちに何ができるのか、具体的な方策を探る場としたい。非正規雇用研究者問題の当事者のなかには、今後の学会を担うべき若手研究者も多く含まれる。非正規雇用研究者の問題を学会全体で考えることは、将来の平和学会のありかたを考えるうえでも、きわめて重要であろう。
当事者による演奏:佐藤壮広(立教大学)
報告:
平林今日子(京都大学)
「若手及び非正規雇用研究者が置かれた現状と要求について——『非正規アンケート』回答結果及び『非正規フォーラム』での訴えをもとに」
西村誠(共同通信社社会部)
討論:清末愛砂(室蘭工業大学)
討論:清水奈名子(宇都宮大学)
司会:猪口絢子(大阪大学大学院生)
*この部会の録画はプライバシーなど配慮し、編集後、日本平和学会のサイトで公開予定です。
なお、この部会におきまして、匿名かつカメラOFFで参加を希望される方は、事前に部会管理者(猪口:a-inokuchi(a)osipp.osaka-u.ac.jp)に氏名・所属とハンドルネームをお伝えください。
9:00-11:30 自由論題部会1
報告:森本麻衣子(青山学院大学非常勤講師)
「中華人民共和国における抗日戦争の語りにみられる言語転換、その含意——二つの事例の対比から」
報告:中沢知史(南山大学講師、京都外国語大学ラテンアメリカ研究所客員研究員)
「『インディオのいない国』の先住民運動――現代ウルグアイにおけるチャルーア運動による歴史的記憶回復の試み」
討論:楊小平(島根大学)
討論:木村真希子(津田塾大学)
司会:佐藤史郎(東京農業大学)
11:30-12:00 昼休み
12:00-14:00 分科会
14:10-15:20 総会
第7回日本平和学会平和賞・平和研究奨励賞授与式
15:30-18:00 部会2(平和賞関連・第23期企画委員会企画)
継承される抵抗
人類の歴史では、その一面において不当な支配、搾取、暴力そして戦争が続いてきた。戦争・紛争・テロなど直接的な暴力だけでなく、専制主義(絶対君主主義や独裁主義)・全体主義(ファシズムやナチズム)などの権威主義的政治体制や、貧困・飢餓・差別・環境破壊などの構造的暴力によって、世界のいたるところで平和は脅かされ、人類は「抑圧する側」と「抑圧される側」という関係のなかで、その暮らしを営んできた。
しかし、「抑圧される側」はけっして、抑圧や支配を唯々諾々と受け入れてきたわけではない。わたしたちは、人類の歴史が、人間がみずからの尊厳と解放のために抑圧と闘ってきたプロセスであることも知っている。植民地支配に抵抗したガンディーや人種隔離政策に抵抗したネルソン・マンデラだけでなく、たとえば、グローバル資本主義の拡大による格差、乱開発・環境破壊、気候変動、特定の民族・宗教へのヘイトスピーチなど、さまざまな不正義・不公正に対し、多くの人びとが「非暴力直接行動」あるいは「市民的不服従」という手段で抵抗してきた。
排外主義・分断がますます深刻になり、『原子力科学者会報』による「終末時計」の針が「残り100秒」を指した2020年、わたしたちは、どのように「壁」を打ち壊し、手をとり合い、平和のために抵抗していくのかを考える部会にしたい。
報告:
Sung-Hee Choi(Ganjeong Village International Team)
藤田明史(立命館大学)
「現代において非暴力による社会変革は可能か——山本宣治『戦争の生物学』から考える——」
上村英明(恵泉女学園大学)
「国際(人権)規準をつかった市民的抵抗——孤立したと思わせることが、敵の戦略」
林田光弘(「ヒバクシャ国際署名」キャンペーンリーダー)
「ヒバクシャ国際署名活動にみる被爆体験の継承——石田忠の論理からの考察——」
討論:竹中千春(立教大学)
司会:小田博志(北海道大学)
15:30-18:00 部会3(開催校〔横浜市立大学〕企画)
地球規模課題解決におけるグローバル・ガヴァナンスの有効性とオルタナティブ
新型コロナウイルス感染症の世界的蔓延や進行する地球温暖化など地球規模課題は、いまや人類の生存危機と同義となってきた。それに対して、主権国家体制をベースとする国際社会は有効に機能できていない。その限界を超える動きとして、国家に加えて、NGOや企業など多様なアクターによる共治としてのグローバル・ガヴァナンスが主流化しつつある。しかし、地球規模課題の解決にグローバル・ガヴァナンスがどの程度有効なのかということに関する研究は、十分進んでいるとは言い難い。また、それが十分に有効でない場合のオルタナティブに関する研究はほとんど見られない。
そこで、本部会では、まずグローバル・ガヴァナンスの有効性について検討し、有効な理由とその限界を浮き彫りにする。その上で、限界を超える一つのオルタナティブとして、世界政府論を吟味し、その可能性と課題を考察する。さらに、グローバル民主主義論の観点から、グローバル・ガヴァナンスと世界政府論双方を検討することで、今後の地球社会の統治のあり方について議論を深め、平和な世界への展望を試みたい。
報告:西谷真規子(神戸大学)
報告:速水淑子(横浜市立大学)
報告:杉浦功一(和洋女子大学)
「グローバル民主主義論から見たグローバル・ガヴァナンスと世界政府論」
討論:渡邊智明(福岡工業大学)
司会兼討論:上村雄彦(横浜市立大学)
11月8日(日)
9:00-11:30 部会4(開催校〔高千穂大学〕企画)
平和教育と市民教育の現在
日本の小学校では2018年度から、中学校では2019年度から「道徳の時間」が「特別の教科 道徳」(道徳科)へと週に1回教科化され、2022年からは高校において「現代社会」に代わって「公共」が必修科目として新設されることとなった。とくに「公共」においては、小中学校の「道徳」が接続されるかたちで道徳教育化が進み、他方で「現代社会」等が扱ってきた基本的人権や平和主義の削減が懸念されている。
また18歳選挙権の導入にともない主権者教育が進みつつあるものの、平和主義や人権教育が現在の日本政治のポリティカルコンパスのなかでは、政治性をともなうものとして色づけされがちな世間的風潮が蔓延しつつある。
このような現代の政治環境のなかで平和教育と市民教育はどうあるべきだろうか。この問いに応答すべく、まずは本パネルで変容しつつある日本の教育の現在地とその課題を報告者、討論者、そしてフロアーとともに多面的に確認し、平和教育と市民教育の今後を展望するための手掛かりを探りたい。
報告:村上登司文(京都教育大学)
報告:阿知良洋平(室蘭工業大学)
「平和学習において技術を捉える意味——平和教育の困難な現状との関連で」
報告:鈴木隆弘(高千穂大学)
「平和教育と市民教育——新科目「公共」実施と公民教育の関係から」
討論:ロニー・アレキサンダー(神戸大学)
討論:暉峻僚三(中央大学)
司会:高部優子(横浜国立大学大学院)
9:00-11:30 部会5(第23期企画委員会企画)
「原爆被害」の語りを再考する――<語られないもの>という視点から
当初は国の援護もなく、社会のなかで周縁に置かれる存在だった原爆被害者は、被爆者運動やマスコミの報道、またさまざまな学術的成果などにより、「被爆者」として世に知られるようになった。現在の「原爆被害」や「被爆体験証言」という枠組みは、従来の原爆被害という歴史的出来事を語るさまざまな取り組みによって、形づくられてきた。しかしながら、そのなかで相対的に語られることのなかった被害がある。広島・長崎への原爆投下から75年を迎えるいま、われわれはどのように原爆被害を語るべきなのか。本部会では、これまで言及されることの少なかった在韓被爆者の韓国社会における表象、沖縄在住の被爆者、被爆と女性の問題などの事例を取り上げることで、従来の枠組みを再考しつつ、未来に向けて、どのように原爆被害という歴史を語り継ぐのかを検討したい。
報告:鄭美香(長崎大学大学院博士課程)
「韓国における原爆の表象―共有されなかった在韓被爆者の記憶」
報告:桐谷多恵子(長崎大学核兵器廃絶研究センター)
報告:山口響(長崎大学核兵器廃絶研究センター・長崎の証言の会)
討論:竹峰誠一郎(明星大学)
討論:根本雅也(松山大学)
司会:四條知恵(長崎大学)
11:30-12:00 昼休み
12:00-14:00 分科会
14:10-16:40 部会6(開催校〔横浜市立大学〕企画)
アフリカにおける「下からの」自立支援
近年、多くのアフリカ諸国は高い経済成長を達成し、開発援助の対象から「ビジネスパートナー」への転換を謳う声が聞こえる。他方、サブサハラ・アフリカでは約41%の人々が貧困ライン以下で生活しており、さらに中央アフリカ、コンゴ、南スーダン、ブルンジなどの国々では、いまだに紛争が続いている。このままでは、持続可能な開発目標(SDGs)の達成は望めず、平和な地球社会の訪れもないだろう。
どうすればアフリカでの紛争を終結させ、貧困をなくすことができるのだろうか。そして、紛争や貧困で苦しんでいる人々を支え、自立に向かわせることができるのだろうか。その一つのアプローチが、NGOなどによる「下から」の開発協力や自立支援である。
本部会では、まずアフリカにおける紛争と貧困問題の現状と原因、今度の展望をおさえた上で、あるべき自立支援のあり方を探る。そして、具体的な事例として、コンゴ紛争地帯における女性を対象にしたNGOの活動を考察する。
報告:戸田真紀子(京都女子大学)
「アフリカにおける紛争の現状と原因、そして今後の展望:国民を守る政府を求めて」
報告:高橋基樹(京都大学)
「アフリカの開発と貧困を再考する―自立と依存の二項対立を超えて」
報告:吉田真衣(テラ・ルネッサンス)
「脆弱国家の人々に対する草の根支援からの一考察-コンゴ民における紛争被害女性に対する支援を事例に」
討論:小川真吾(テラ・ルネッサンス)
司会兼討論:峯陽一(同志社大学)
14:10-16:40 自由論題部会2
東南アジアの最前線
報告:藤原尚樹(神戸大学大学院博士後期課程)
「スラムのない都市」と包摂の言説:フィリピン・マニラを事例に」
報告:小阪真也(立命館大学)
「移行期の正義と恩赦をめぐる立憲的統制:インドネシアにおける規範の適用過程と結果」
討論:松野明久(大阪大学)
討論:佐竹眞明(名古屋学院大学)
司会:古沢希代子(東京女子大学)
14:10-16:10 部会7(平和教育プロジェクト委員会企画)
オンラインワークショップ:新型コロナウイルス感染拡大が気づかせてくれた平和教育の可能性
新型コロナウイルスの感染拡大から半年以上が経過した。その間、学校や職場、大学、街、そして我々の生活も大きな影響を受けた。本ワークショップの目的は、この間を振り返りながら、この経験をどのようにすれば平和教育に生かすことができるかを検討することである。ここでの平和教育は「他との関係性において、自分はどのような社会に暮らしたいかを考え、話す場」と捉えるため、学習の場のみならず生活の場での対話でもある。
「ニューノーマル」や「新しい生活様式・新しい常識」など、「新しい」「変わった」が強調されるなか、ワークショップではまず、新型コロナウイルス感染拡大によって、個人にとって、社会にとって、世界にとって変わったこと、変わらなかったこと、再認識したことなどを振り返る。次いで、新型コロナウイルス・パンデミックが「平和」にどのように関係しているかをマッピングし、「コロナ時代の平和教育」について議論する。討論では例えば、「新しい平和教育は必要か」、「パンデミックを既存の平和教育に生かすことができるのか」「パンデミック時代をactive citizenとして生きるとはなにか」「オンラインでもactive learningの平和教育はできるのか」「私たちの『平和』の定義は変わったのか」などを取り上げたい。最後にそれぞれがイメージするコロナ時代の平和教育を描く。オンラインワークショップは、対面と違う良さや難しさがあるが、それらを味わいながら、充実したワークショップの在り方を探っていきたい。
ファシリテーター:ロニー・アレキサンダー (神戸大学)、奥本京子(大阪女学院大学)、笠井綾(宮崎国際大学)、鈴木晶(横浜市立東高校)、高部優子(横浜国立大学大学院)、暉峻僚三(川崎市平和館)、中原澪佳(新潟大学大学院)、松井ケティ(清泉女子大学)