大会テーマ「ポスト成長時代の社会構想―環境とコミュニティの破壊から再生へ」
2017 年 11 月 25 日 (土)・26 日 (日)
会場:香川大学(幸町キャンパス)
<開催趣旨>
人類は、18世紀の産業革命以来、枯渇性資源を大量に消費しながら未曽有の物質的な「豊かさ」を手に入れてきた。20世紀を特徴づけた資本主義と社会主義の対立軸が消滅すると、利潤を実現する場所としての市場が、いっそうグローバルな規模で拡大する様相を呈している。だが、それは同時に、人間社会の内部において「持てる者」と「持たざる者」との格差を広げてきたのみならず、地球上の環境を破壊することによって幾多の生物を絶滅の淵に追いやり、ひいては人類を含めた生態系の存続を脅かす破滅的なプロセスとなりつつある。
「近代」において人類が追求してきたこうした「豊かさ」は、すでに1970年代の石油危機以来、地球の資源と環境の制約の前に永遠に続くものではないことが分かっている。エルンスト・F. シューマッハーは、1973年にガンディー思想にもとづいて、「必要物の削減によってのみ究極的には紛争と戦争の原因になる緊張を本当になくすことができる」と主張した。イヴァン・D. イリイチも同年、「近代」の生産力主義とは異なる概念として、人間が「互いに自立的でありながら他者を尊重し、相互に助け合う倫理」を意味する「コンヴィヴィアリティ」(自立共生)を提唱した。ポスト冷戦時代における経済のグローバル化が、ますます地球に負荷を与えるなかで、人類には、いかにこの閉じられた星の上で互いに「コンヴィヴィアル」な関係性を構築するかがなお課題となっている。
「コンヴィヴィアリティ」は、「共に生きる」ことであるから、本来は「今」という時間を共有している者どうしの間で成立する関係性である。しかし、私たちは、それを地球に現在生きている世代の間においてのみならず、現代世代と将来世代の間にも敷衍して考える必要があるだろう。なぜなら、現代世代は、自分たちのうちにおいてはもちろんのこと、将来世代とも地球上の資源を分かち合って生きてゆくことが求められるからである。
こうしたなかで、「近代」の物質的な「豊かさ」を求めるのとは異なる個人の生き方や、社会の創り方が、少しずつ模索されるようになってきた。それは、いわば「ポスト成長時代の社会」を構想するものであるといえる。たとえば、1970年代より産業廃棄物問題と戦ってきた香川県豊島は、「環境とコミュニティの破壊から再生へ」向かって動きはじめている。ナマケモノ倶楽部を起ち上げ『スロー・イズ・ビューティフル』を著した辻信一氏や、ガンディーの言説を日本語に翻訳しつつ、日本の各地で糸紡ぎのワークショップを開催している片山佳代子氏は、まさにそうした新しい時代における人間や社会のあり方を実践的に示しているといってよい。
日本平和学会には、グローバル社会にはっきりと台頭しつつある排外主義―植民地主義の新しいかたち―に抗しつつ、ポスト成長時代をみすえて、人々が共に生きてゆける社会を構築するための知的・実践的営為が今こそ求められている。それはまさに、この星の上で将来世代をも見据えて「コンヴィヴィアリティ」の論理を追求することにほかならない。開催校担当者としては、今回の研究集会が、東アジア地域の研究者との対話もふまえながら、そうした新しい時代の平和学を鍛錬する機会となれば幸いと考える。
開催校理事 石井一也
11月25日(土)
9:40-12:00
部会1(企画委員会担当部会)
「人々が創り出す社会構想―持続可能な社会のための民主主義を問う」
3.11の原発震災以降、「中心」による「周縁」の抑圧と搾取をもたらす非民主的な政治経済システムの実態が、日本国内で顕在化してきた。一連の問題状況の深刻化を受けて、「政治離れ」が長らく指摘されてきた日本においても、各地で新たな市民活動が始まり、国会前デモが象徴するように、多様な背景をもつ市民が参加しつつ継続的に実施されてきた。
本部会では、市民が国内外において実践してきた持続可能な社会を目指す活動に注目しつつ、これらの活動を通して人々がいかなる社会を構想しているのかについて検討する。新自由主義、国家主義、排外主義を混淆しつつ煽動的な政治を標榜する議論が一定の支持を集める現代世界において、多様な主体が共存するための共同作業としての民主主義の在り方を問い直す機会としたい。
報告1:毛利聡子(明星大学)
「縮む市民社会スペースと広がる企業民主主義―オルタナティブな社会構想の場を求めて」
報告2:五野井郁夫(高千穂大学)
「参加民主主義と非暴力のグローバルな復権」
報告3:佐々木寛(新潟国際情報大学)
討論:浪岡新太郎(明治学院大学)
司会:清水奈名子(宇都宮大学)
9:40-12:00
自由論題部会1(パッケージ企画)
「核開発に対する抵抗活動―各国の事例に学ぶ」
福島原発事故の後処理が未解決にも関わらず、日本では一時停止した原発を一部再稼働している。原子力のリスクは正しく認識されているだろうか。放射線は、科学の知識なしには人には知覚できないため、「どうリスクを決定づけるか」が、人や政策を動かす力となりうる、いわば価値観の闘いである。
歴史をふりかえると、これまで、世界各地でさまざまな人びとが、核開発を推し進める暴挙に対して立ち上がり、当局の示す虚像の裏に覆い隠された情報を公表して糾弾し、歪められた原子力についての認識を正してきた。原子力の軍事利用・民生利用は表裏一体であることから、本部会の報告では両者をあわせて対象とし、抵抗活動の現在的意義を問う。
報告1:高橋博子(明治学院大学)
報告2:竹本真希子(広島市立大学)
報告3:佐藤温子(香川大学)
司会・討論:木戸衛一(大阪大学)
映画上映有:「ハンヒキヴィ・ワン/墓穴を掘る」(70分)
(原水爆禁止日本協議会/アリプロダクション 2014年)※上映許可有
10:00-12:00
自由論題部会2(単独報告)
報告1:松尾哲也(島根県立大学)
「平和の政治哲学-レオ・シュトラウスの政治哲学における戦争と平和-」
討論:松元雅和(関西大学)
報告2:Ahmed Sajjad (Graduate School, Osaka University)
討論:Kiyoko Furusawa (Tokyo Woman’s Christian University)
司会:松元雅和(関西大学)
12:00-12:30 昼休み
12:30-14:30 分科会
14:40-15:30 総会
第6回日本平和学会平和賞・平和研究奨励賞の発表
15:40-18:10
部会2(開催校企画)
「パックス・エコノミカを超えるために―脱成長論の思想と実践」
生産力の向上や経済的利益をひたすら追求した「成長」の時代を超えて、「ゆっくり」生きてゆくことに再び人間らしさを見出そうとする人々が、少しずつ増えてきている。ナマケモノ倶楽部やコットン・レボリューションの活動、和綿の栽培や糸紡ぎの実践、そして現代に生きるガンディー思想などは、いずれも「近代」の生産力主義のもとで軽視されてきた「コンヴィヴィアリティ」(自立共生)の価値を追求するものである。この部会では、これらの事例をもとにポスト成長時代を担う人間のあり方を考え、それを支える新しい社会科学を模索する縁としたい。
基調講演:辻信一(明治学院大学・ナマケモノ倶楽部)
「ローカリゼーションへの道筋―ポランニーによる経済的自由主義批判から」
パネル・ディスカッション
パネリスト1:辻信一(明治学院大学・ナマケモノ倶楽部)
パネリスト2:片山佳代子(糸紡ぎ講師・ガンディー研究家)
パネリスト3:石井一也(香川大学)
コメンテータ:古沢広祐(國學院大學)
司会:石井一也・古沢広祐
15:40-18:10
部会3(平和教育プロジェクト委員会企画)
ワークショップ「平和のためのリテラシー」
平和教育プロジェクト委員会では、「平和を壊す問題に敏感になり、社会の主役としてそれを考え、語り交わし、行動するActive Citizenを育て、Active Citizen養成に関わる平和教育の人の輪を広げてゆく」ことを22期の重要なミッションとして認識している。
特に、ポスト真実の時代とも呼ばれる現在においては、デマや扇動に流され暴力への加担をせず、排外的行動、憎悪表現・煽動に抗し、上辺ではない共生社会を構築してゆくActive Citizenを増やしてゆく必要性は非常に高い。そして、Active Citizenになるための必須のスキルが、平和のためのリテラシー力である。
平和のためのリテラシー力が必須である反面、情報通信技術の発達により、ある意味、誰もが非常にお手軽に、暴力の扇動者になりうる時代に私たちは生きている。例えば、ネットユーザーのほとんどがSNSなどを通じて、報道の配信システムに組み入れられている現在のメディア空間においては、誰もが「いいね」を押す、一言コメントとともに「シェアする」などの方法で、憎悪表現・煽動者にもデマの発信者・拡散者にも簡単に成り得る。このことは、ヘイトデモと呼ばれる憎悪の煽動行動への参加者の多くが口にする「ネットで真実を知った」という参加の動機にも現れている。そして、何よりも深刻な平和のためのリテラシー力の欠如は「無関心」である。無関心は社会においては行為としての暴力に承認を与える役割を果たす。
22期最後の集会では、上記のような問題意識から、「平和のためのリテラシー」を考えるワークショップを提供する。ワークショップは、下記3つのパートからなる。
1) 最初に、平和教育プロジェクト委員会より、様々な、平和を脅かすトピックに対して、参加者それぞれがどのように感じ、どのように考えるのかを可視化できるようなワークショップを提供する。
2) 参加者それぞれが自らの「平和をつくるフィールド」で感じる平和をためのリテラシーの欠如、および、平和のためのリテラシーを扱う上での難しさを、参加者の間で共有・意見交換を行う。
3) 2)で共有された問題意識ごとにグループ分けをし、「平和のためのリテラシー」を養う、10分程度のプログラムをグループワークで作成、会場で実施する。
上記のワークショップの実施により、平和を脅かす要素に対する受信力を考えるだけでなく、平和のためのリテラシーをどのように発信・配信できるのかを考える機会としたい。
18:30-
懇親会
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11月26日(日)
9:10-11:30
部会4(開催校および中国・四国地区共同企画)
「環境とコミュニティの破壊から再生へ―豊島の産業廃棄物不法投棄問題をめぐって」
香川県豊島では、1980年頃から産業廃棄物が不法に投棄されるようになり、文字通り島の環境とコミュニティが破壊されてきた。島民は、廃棄物対策豊島住民会議を中心として住民運動を展開し、産廃不法投棄を認めた香川県と2000年に公害調停を成立させた。以来、産廃の島外撤去、および再利用のための焼却・溶融による無害化の作業がなされ、その完了には、本年6月まで実に13年余の時間がかかった。この間、「豊島は私たちの問題ネットワーク」(豊島ネット)は、「豊島へ行こう」、「豊島棚田くらぶ」などの催しを通じて市街地住民をも豊島に運び、島の内外の人々によるコミュニティの再生に寄与してきた。瀬戸内国際芸術祭などをきっかけに都会から移住してきた人々も加わって、豊島は、新しい時代に向かって動き出している。
この部会では、豊島住民運動に深く関与してこられた人々、そして実際に豊島に住み、運動の過程を観察してこられた研究者とともに、この島で起きた産業廃棄物不法投棄問題を考察する。その作業を通じて、高度経済成長時代における環境とコミュニティの破壊を振り返りつつ、人間が自然と調和しながら共生する新しい時代の社会を素描することを目指す。
瀬戸内海放送報道番組上映「豊島産廃の撤去完了―『豊島事件の教訓』を考える」
報告1:安岐正三(廃棄物対策豊島住民会議)
報告2:真鍋宣子(豊島棚田くらぶ)
報告3:藤本延啓(熊本学園大学)
「豊島問題の社会史―不法投棄事件は人々と社会に何をもたらしたか」
討論:横山正樹(フェリス女学院大学)
司会:寺尾徹(香川大学)
9:10-11:30
部会5(韓国平和学会との共催部会)
「朝鮮半島と日本の平和課題―現状と展望」
日本平和学会は、東アジアの平和研究者との交流・連携を深めて、東アジアの平和研究者のネットワークをつくることを近年の重要な課題として位置づけてきた。韓国平和学会および韓国の平和研究者とは2015年春季研究大会(於・広島)以来、地道な交流を続けている。今回、再び、韓国平和学会の会員の参加を得て、朝鮮半島と日本が直面する平和課題について分析を加え、平和への道筋を模索したい。
報告1:朴栄濬(国防大学校)
「韓国平和研究の展開と北朝鮮問題への対応」」
報告2:南基正(ソウル大学日本研究所)
報告3:秋林こずえ(同志社大学)
「『慰安婦』問題の現状と展望」
討論1:木宮正史(東京大学)
討論2:水本和実(広島市立大学広島平和研究所)(予定)
司会:中戸祐夫(立命館大学)
11:30-12:00 昼休み
11:35-11:55 核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)ノーベル平和賞受賞記念スピーチ
川崎哲(ピースボート共同代表、ICAN国際運営委員)
12:00-14:00 分科会
14:10-16:40
部会6(3.11プロジェクト委員会企画、日本環境会議後援)
「3.11『復興』・『再生』を問う―忘却に抗うよりどころを求めて」
3.11から6年以上の月日が流れ、福島第一原発事故の忘却が加速度的に進んでいる。他方、帰還政策が進められるなか、補償打ち切りも連動し、新たな問題が生じている。3.11原発事故のその後の未来はどう拓いていけばいいのだろうか。福島の原発事故からの「復興」「再生」が叫ばれているが、その矛盾も広がっている。今年にはいり『「復興」が奪う地域の未来』(山下祐介、岩波書店)、『復興ストレス』(伊藤浩志、彩流社)など、「復興」を批判的にとらえる書も相次いで刊行された。公害、環境問題、核被害問題がこれまで問うてきた知見にも学び、福島原発事故の「復興」「再生」を問い直し、忘却に抗うよりどころを探りたい。平和研究と環境研究との連携・対話を深める場ともしたい。
報告1:除本理史 (大阪市立大学・日本環境会議事務局次長)
報告2:鴫原敦子(仙台高専・日本平和学会「3・11」プロジェクト委員)
討論1:藤川 賢 (明治学院大学・環境社会学会理事)
討論2:蓮井誠一郎(茨城大学・日本平和学会「3・11」プロジェクト委員長)
司会:竹峰誠一郎(明星大学)
14:10-16:10
自由論題部会3(単独報告)
報告1:楊小平(広島大学)
「中国人の原爆被爆と日本の市民支援運動―ヒロシマは日中の和解のために何ができるか―」
討論:加治宏基(愛知大学)
報告2:上杉勇司(早稲田大学)
討論:内海愛子(大阪経済法科大学 アジア太平洋研究センター)
司会:小林誠(お茶の水女子大学)