責任者:笠井賢紀
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『環境平和学』はじがきより
いま私たちが直面するもっとも重要な共通課題は何か。
このところのニュースを見ればそれはすぐにわかる。年金を初めとする社会的セーフティネット不安や自殺の多発、「少子化」、「ニート」、アスベスト被害の拡大から「テロ」問題・核拡散にいたるまで、そこに通底しているのは、私たちの社会の存続と次世代への敬称が危うくなってきた現実だ。第三世界に目を転じれば、内戦やエイズ禍そして飢餓や環境破壊などにより、地域社会の存続・再生産すら立ちゆかなくなる状況が各地に頻発している。その深刻さや表れ方は場所ごとにずいぶん違う。だがいずれも生存のための自然環境と社会基盤崩壊の危機、すなわちサブシステンスの危機にほかならない。これに有効に立ち向かう理論構築と実践のあり方をめざして、私たちは「環境平和学」を提唱するにいたった。
グローバリゼーションがもたらしたものは何だったのか。開発主義と一体の市場経済がこの世界を覆うとともに、一国内でも世界的にも貧富の格差拡大が進行し、それは人びとの生存格差に直結した。エネルギーを含む天然資源の大規模開発と廃棄物の大量発生によって、地球温暖化や地球環境の汚染・破壊はますます進む。そのツケはおもに第三世界など相対的弱者と未来世代へ回される。しかもその被害実態が外部からはたいへん見えにくい。
第三世界と未来世代に回されたツケ、それはさまざまな環境問題というかたちで現実に現れる。それを私たちは開発主義の生み出す構造的暴力ととらえ、平和学としてともに取り組んできた。すなわち「環境を平和学する!」共同作業だ。
環境・平和分科会ではサブシステンスの危機に立ち向かい、サブシステンス論を深めるため、さまざまな専門領域を横断する研究と議論の場を創る努力を続けている。
【研究目標】
本分科会はコミッション時代を含めて10年、春秋の学会での分科会開催とともに、毎月「環境・平和研究会」を開催して研究活動を行ってきた。その成果は上記の参考文献に結実し、現在はサブシステンスの危機から具体的に脱出する方法を探る段階に入りつつある。
今後さらにサブシステンス論を深めるため、環境分野を専門領域とする研究者や活動家はもちろん、さらに多様な専門領域の研究者、さまざまな活動領域の社会運動家、NGO活動家、さまざまな領域に関心を持つ人びとの参加を求めたい。そして人間の日々の再生産と次世代の育成にかかわる生命、医療、介護、教育、食、農業……などについても議論を深める、開かれた場として活動していく所存である。
【参考文献・ウェブサイト】
郭洋春、戸﨑純、横山正樹編『環境平和学―サブシステンスの危機にどう立ち向かうか』法律文化社、2005
郭洋春、戸﨑純、横山正樹編『脱「開発」へのサブシステンス論―環境を平和学する!2』法律文化社、2004
戸﨑純、横山正樹編『環境を平和学する!―「持続可能な開発」からサブシステンス志向へ』法律文化社、2002
「特集:環境平和学のススメ」『季刊 軍縮平和市民』No.6、明治大学軍縮平和研究所、2006年秋