●第2回日本平和学会 平和賞
梅林宏道会員およびピースデポ
核軍縮をめぐる調査・提言活動、機関紙「核兵器・核実験モニター」およびイアブック『核軍縮・平和』の刊行。特に、2007年における、海上自衛隊のインド洋での給油活動に関する重要な瑕疵を明るみに出すきっかけとなった調査活動。
●第2回日本平和学会 平和研究奨励賞
高橋博子(広島市立大学広島平和研究所)
1. (共編著)高橋博子・竹峰誠一郎責任編集、グローバル・ヒバクシャ研究会編『市民講座 いまに問う ヒバクシャと戦後補償』(凱風社、2006年10月)
2. (単著)高橋博子著『封印されたヒロシマ・ナガサキ:米核実験と民間防衛計画』(凱風社、2008年2月)
【授賞理由】
梅林宏道会員およびピースデポ
核軍縮をめぐる調査・提言活動、機関紙「核兵器・核実験モニター」およびイアブック『核軍縮・平和』の刊行。特に、2007年における、海上自衛隊のインド洋での給油活動に関する重要な瑕疵を明るみに出すきっかけとなった調査活動。
第2回平和賞 授賞理由
2006年6月14日
第2回日本平和学会平和賞選考委員会
日本の反核運動は、世界でもまれな草の根的広がりと持続性を示してきた。しかし他方では、党派的分裂や戦争体験への素朴な寄りかかりの中で年中行事化=形骸化という問題をも抱えてきた。これに対し、ピースデポは、欧米に見られるような高度な専門性と政策提言能力を備えた自立的な市民運動組織の形成をめざして結成され、すでに10年以上に及ぶ活動実績を蓄積してきた。その功績は、梅林宏道会員に帰せられる。
日本の平和運動で「市民運動」が広まったのはベトナム反戦運動の頃からであるが、梅林会員は、みずから相模原戦車阻止闘争などに従事しつつ、ベ平連に代表される日本の「市民運動」が抱える個人主義的な限界をいかに超えていくかを模索した。すなわち、市民運動がその名に値する広がりや影響力を持つには、たんに自立した個人による運動にとどまらず、いかに人に働きかけ、新しい連帯をつくりだしていくかという視点が欠かせない。梅林会員が運動の中で調査・研究を重視するようになったのは、「ただの市民」が他の市民に、情緒的あるいは政治的なアピールを超えて、客観的なデータという、より同意を得やすい土俵で働きかける、連帯の手段としてであった。その結実がピースデポである。したがって、ピースデポの10年余にわたる活動実績のもつ意義とは、単なる調査研究型の軍縮NGOの誕生というにとどまらず、日本においてはじめて本格的な市民的平和運動を樹立した点にある。
しかし、なお、ピースデポはその活動の志と質の高さにもかかわらず、「市民」的なものを容易に受け入れない日本社会の中にあって、幅広い市民に対するインパクトという点で困難を抱えてきた。ピースデポの機関紙創刊10周年にあたり、ある平和学会員は「平和運動はよく種火にたとえられる。それ自身では大きな火にはならないが、いざ火を燃やそうとするとき、重要な役割を果たす。ピースデポの地道な活動と蓄積は、いずれきっと広い世間で必要とされるときが来ると思う」とコメントを寄せていた。昨年、ピースデポは、インド洋での給油問題という、国政上の重要案件を揺るがす形で、その価値を世に知らしめることになった。こうして、調査・研究活動と平和運動の有機的結合の開花という点で、梅林宏道会員およびピースデポは、第2回日本平和学会平和賞にふさわしい貢献をなしたと評価される。
高橋博子(広島市立大学広島平和研究所)
1. (共編著)高橋博子・竹峰誠一郎責任編集、グローバル・ヒバクシャ研究会編『市民講座 いまに問う ヒバクシャと戦後補償』(凱風社、2006年10月)
2. (単著)高橋博子著『封印されたヒロシマ・ナガサキ:米核実験と民間防衛計画』(凱風社、2008年2月)
第2回平和賞 授賞理由
2006年6月14日
第2回日本平和学会平和賞選考委員会
高橋博子会員は、米国史を冷戦の視点でとらえ直し、主に核兵器や原爆の開発とそれらがもたらした意味・プレスコードなどの検閲・1954年のビキニ核実験での住民被害と日米合作による真相の隠蔽等、これまで隠され続けてきた人体実験と情報操作の問題に焦点を当て研究実績を重ねてきた。上記の共編著では、ビキニ事件を題材に米国の情報統制の実態と本質を明らかにするとともに、米国の民間防衛計画(国民保護計画)にみる核政策の具体的検証を通じて「隠されたヒロシマ・ナガサキの実相」と戦後の米国の原子力政策の問題点・矛盾を浮かび上がらせた。こうした高橋会員の研究姿勢と問題意識は、博士論文「米国政府による原爆情報管理と民間防衛計画-1945年-1955年」(2003年3月提出、同志社大学)以来一貫しており、上記単著『封印されたヒロシマ・ナガサキ:米核実験と民間防衛計画』はその集大成である。
高橋会員の研究業績が強い説得力を持つのは、その広い歴史的視野と深い問題意識ばかりでなく、米国立公文書館などを活用した徹底した資料調査や、ビキニ諸島訪問を通じた直接の住民への聞き取り調査などに基づいた手堅い研究手法があるからである。また、高橋会員は、資料調査や現地訪問のプロセスで得られた新資料・情報の提供を行うなど、社会活動の面においても大きな貢献を行っている。さらに、高橋会員が「被爆者」だけでなく、核実験の被害者や原発事故の被害者である「被曝者」なども含めた放射能被害者に関して「グローバル・ヒバクシャ」という新しい視点を打ち出し、若手研究者を中心にした「グローバル・ヒバクシャ研究会」を発足させ積極的な活動を行っていることも高く評価される。