研究者や知識人は、自らが関心を寄せるテーマについて、さまざまな手法を用いて調査分析を行い、その成果を論文や著書等を通して、発表してきました。そうすることで、社会における知を形成する役割を担ってきました。
研究者が大学等の研究・教育機関に属する場合、研究成果から得られた情報や知識を基に授業内容を組み立て、それらを学生に教えてきました。このような文脈で考えると、大学とは、専門的な知識を多角的に伝えることで、想像力を持った豊かな人間を形成することに貢献する役割を担ってきたと言えるでしょう。
本来、学問とは、国家の意向に沿って行うものではなく、研究者や知識人自らの関心と探求心に基づき主体的になされるべきものです。しかしながら、日本の近現代史が物語るように、学問は国家による監視や介入を受けやすいものです。それゆえに、日本国憲法23条は、このような活動が自由に行われるようにするために、「学問の自由」を保障しています。
社会の状況に応じては、研究者・知識人として声を出すことが求められるときもあるでしょう。たとえば、国家権力が暴走し、市民の権利を否定するような事態が生じたとき、あるいは市民の生命を脅かす政策が導入されようとするときです。その場合、研究者や知識人はその状況を批判的に分析し、理路整然に必要な知を提示することで、その暴走を止めるための一つの力となることができます。また、国家権力の暴走は、研究活動への介入を招きかねず、学問の自由が脅かされることにも繋がるという意味においては、自らの権利を守るために行動することも求められるでしょう。このようなとき、自らの知に基づいて、批判的精神を発揮することがなければ、学問の意義そのものが問われることになります。以下では、研究者や知識人が、このような批判的精神の下で社会的発信を行っている例を紹介します。
第189回国会で審議されている安全保障関連法案の成立が戦争への道につながることを危惧する研究者が、2015年6月、「安全保障関連法案に反対する学者の会」を設立しました。同8月末までに1万3000人を超す研究者が同会の賛同人となっています。同会は、「学問と良識の名において、違憲性のある安全保障関連法案が国会に提出され審議されていることに強く抗議(参考資料)」するために、記者会見、集会、デモ等を通して、積極的に発信しています。また、日本各地の大学教職員有志が、同法案の廃案を求める独自の声明を公表する等の活動を活発に行っています。(清末愛砂)
参考資料
安全保障関連法案に反対する学者の会 http://anti-security-related-bill.jp/