「日米安保村」という言葉は、2011年3月11日に福島第一原子力発電所事故が発生したさいに、「原子力ムラ」の存在が浮き彫りになったことで、使用されるようになりました。周知のように、「原子力ムラ」とは、電力会社や電気メーカー、原子力産業を支える物理学者や原子力問題専門家、原子力産業を所管する経済産業省、族議員、それに原子力産業関連企業の広告収入に依存するメディアから構成される複合体です。彼らは利益相互依存の関係にあり、「原子力安全神話」を作り上げたことで知られます。
「日米安保村」とは、日米安保体制の受益者から構成される「軍産政官学複合体」のことです。防衛省と外務省のエリート官僚、国防や外交に関与する族議員、防衛・外交の専門家や「御用学者」、兵器関連企業などから構成されます。彼らは「ジャパン・ハンドラー」、「アライアンス・ハンズ」と称されることもあります。換言すると、日米安保基軸論者たちであり、抑止力概念に依拠し、日米安保は日本の安全を守るための抑止力として不可欠だと主張、「抑止力神話」を作り上げるのに熱心です。
「日米安保村」という名の利益相互依存複合体は、日米両国にまたがり、相互にトランスナショナルな連携を維持し、日米安保条約の必要性を世論に訴えると同時に、日本の安全保障政策決定過程にも大きな影響力を発揮してきました。一般に、米側メンバーとしては、米戦略国際問題研究所(CSIS)のマイケル・グリーン副理事長、リチャード・アーミテージ前国務副長官、ジョセフ・ナイ元国防次官などが含まれ、日本側メンバーとしては、北岡伸一(安保法制懇座長代理)、岡本行夫(元外交官)、山口昇(元陸上自衛隊研究本部長)、前原誠司(元外相)、長島昭久(元防衛副大臣)などが挙げられます。
アーミテージ報告とは、アーミテージとナイを座長とし、元政府高官や米政権に近い専門家から成るグループによる、日米関係に関する政策提言です。第一次(2000年10月)、第二次(07年2月)、第三次(12年8月)の3回報告書が出ていて、第一次報告では、97年9月の新ガイドラインの着実な実施にくわえて、集団的自衛権の行使を可能にするよう提言。第三次報告では、08年の安保法制懇報告に言及、解釈改憲による集団的自衛権行使を求めています。これらの報告に盛り込まれた提言がその後、日本政府によって実行されていることから、同報告は、日米関係に少なからず影響を及ぼしてきたといえます。(菅 英輝)
参考文献:
齋藤貴男「『普通の国』を求める時代精神」『世界』2015年1月号。
豊下楢彦「『安保の論理』の歴史的展開」菅英輝編著『冷戦と同盟』(松籟社、2014年)
春原剛『ジャパンハンド』文春新書、2006年