100の論点:65. 武力紛争において女性に対してどのような暴力が行使されるでしょうか。

 第二次世界大戦下の旧日本軍による大量レイプや性奴隷制、沖縄地上戦における米軍上陸後の米兵によるレイプや、内戦下におけるジェノサイドとしてのレイプなど、さまざまな戦場で、性暴力によって女性たちの心身は傷つけられ、また命までも奪われてきました。

 兵士は武力紛争下において、敵を非人間化して殺傷しなければならないため、攻撃的、暴力的で残虐になることを求められます。兵士は訓練や戦闘の過程で、敵兵だけではなく、敵対する国、地域、民族の民間人をも非人間化していきます。その結果、兵士の暴力の矛先は、敵の民間人、女性たちに向けられるのです。

 紛争下における性暴力は、敵に対する強烈な威嚇の手段であり、ときには戦利品であり、支配の表現ともなります。紛争下において性暴力は、独特の意味を含むのです。

作戦の一部としての性暴力は、敵に強い屈辱感を与えることができる攻撃手段だと考えられています。性暴力は、女性個人への暴力という意味を超えて、女性の夫や家族、女性の属する民族や社会の不名誉とされるのです。また、女性が子を産む性であるため、女性に対する性暴力は、その属する民族の血に対する攻撃という意味をも持つのです。

 また階級社会である軍隊組織では、下位の兵士たちは、上官の支配の下で極度の緊張とストレスにさらされます。性暴力が、そのストレスのはけ口になるのです。強い暴力性を伴う性暴力は、紛争下で兵士に必要な暴力性・残虐性を維持し強化することになるため、軍隊は兵士たちの性暴力を建前ではルールを作り規制しながらも許容し、あるいは必要としてきました。

 紛争下だけではなく、紛争に備えた軍事化は性暴力と無縁ではありません。軍隊は、紛争に備え、兵士が敵を非人間化し殺傷できるよう訓練します。こうした訓練を通して、軍事基地内で培われた凶暴性のために、平時でも兵士による性暴力が発生しているのです。

 以上のことから、武力による安全保障は、女性にとって安全を保障するものとはいえないのです。そして、紛争下や平時の兵士による性暴力の根底には、女性は劣位にあり、男性や家族、民族等に属する者だという女性差別の観念を含んでおり、そのことも問題だといえます。(高良沙哉)

 

参考文献

シンシア・エンロー著、上野千鶴子監訳、佐藤文香訳『策略―女性を軍事化する国際政治―』(岩波書店、2006)

大越愛子「『国家』と性暴力」江原由美子編『性・暴力・ネーション フェミニズムの主張4』(勁草書房、1998)

高里鈴代『沖縄の女たち 女性の人権と基地・軍隊』(明石書店、2003)

田中利幸「国家と戦時性暴力と男性性―「慰安婦制度」を手がかりに―」宮地尚子編著『性的支配と歴史 植民地主義から民族浄化まで』(大月書店、2008)

中満泉「国内紛争と民族浄化・性暴力」宮地尚子編著『性的支配と歴史 植民地主義から民族浄化まで』(大月書店、2008)