国会が審査・承認するからといって、集団的自衛権行使をはじめとした明白な違憲行為を行うことに変わりはありませんから、違憲行為になる可能性のある活動すべてを本法案から削除しない限りそもそも問題は解決しないと思います。ただ、国家の軍事力行使を、国民代表機関たる国会が制御・統制すること自体はそれとして大変重要なことは間違いありません。しかし、結論から言えば、本法案全体において、国会の「事前承認」はむしろ「例外的」(植松健一)であり、また国会による十分な統制の仕組みを備えていないように思われます。
これまで、自衛隊の「防衛出動」は(「特に緊急の必要がある場合」を除いて)国会の事前承認が必要とされてきました(自衛隊法76条1項)。しかし、自衛隊の海外派遣については、国会の事前承認(PKO協力法)から事後承認(テロ特措法、イラク特措法)、さらには国会への報告(海賊行為対処法等)へと国会の統制が後退してきました。
本法案においても、与党協議などの結果、国際平和支援法案の「国際平和共同対処事態」に対して、一応国会の事前承認制度の下に置いたものの、2年経過後の再承認の際の事後承認を認めるなどの例外も認めています。また、「存立危機事態」においても、(自国が武力攻撃を受けていないにもかかわらず)防衛出動ができ、さらに、(集団的自衛権の行使を含む)武力行使ができる(自衛隊法88条)とされていますが、その場合も「特に緊急の必要があり事前に国会の承認を得るいとまがない場合」は国会の事後承認でよいとされています(武力攻撃事態法9条)。また、「重要影響事態」であっても、「緊急の必要」があれば、国会の事後承認でよいとされています。防衛出動でさえ事前承認が原則なのに、自国が武力攻撃を受けていない事態での(武力行使もありうる)自衛隊の海外派遣に対して、国会の事前承認が不要なほど緊急の必要があるのか、また海外での戦争に日本が参戦することになりかねないのに、事前承認の例外を拡大しようとする本法案の姿勢は本当に疑問です。
なお、国会の承認にあたっては、十分な情報と審議が必要ですが、国会は何を根拠にして自衛隊の派遣の是非を判断するのかが問題です。「存立危機事態」も含む米軍支援に当たっては現場で攻撃を受けたとする米軍側の情報に全面依拠して判断が行われる可能性があり、また、判断の根拠となる情報が特定秘密保護法上の「特定秘密」に指定される可能性もあり、国会での審議や判断を空洞化させかねないことが危惧されます。(河上暁弘)
参考文献
植松健一「安保法案における国会承認制度の欠陥」『別冊法学セミナー 安保関連法総批判』日本評論社、2015年。