100の論点:45. 自衛隊員の武器使用権限の拡大は何をもたらすのでしょうか。

 1992年にPKO等協力法が制定された際、自衛隊員の武器使用についてはあくまで正当防衛の範囲内で認められるという形をとってきました。それを超える武器使用は、憲法9条が禁止する武力の行使になると考えられたからです。

 ところが今回国会に提出された安保法制案においては任務遂行のための武器使用を認める規定が盛り込まれています。これはどういうことかというと、「駆け付け警護」や、いわゆる「テロリスト」組織に拉致された邦人を救出するための武器使用を可能にする、ということです。

 「駆け付け警護」とは、海外で働いているNGO職員や、PKOで海外に派遣されている他国の軍隊が、PKOで派遣されている自衛隊の近くで攻撃を受けた場合、自衛隊がそこへ駆けつけて保護する、というものです。これは従来9条1項が禁止する武力行使にあたるとされ、認められていませんでした。しかし2014年7月1日の閣議決定に際して容認され、今回の法案に盛り込まれました。駆け付け警護は、武力行使にあたるという点から憲法9条との整合性が問題になりますし、海外で活動する日本のNGO職員などからは、駆け付け警護により日本が中立性を欠くことになる結果、日本が紛争当事国や「テロリスト」などから敵国として認識され、日本のNGO職員の生命をかえって危うくしてしまうと批判されています。加えて、実際に戦闘が行われている現場に自衛隊員が駆け付けて武器を使用するということは、自衛隊員が外国人を殺害してしまう危険性を高めることにもなります。さらには、そうした行為が戦争の発端となり、自衛隊員が「戦死」する危険性も高めることになるでしょう。

 武器使用の拡大の結果、もし自衛隊員が外国人を殺傷したとすると、更なる問題が生じます。もしその武器使用が違法だった場合に、その違法な武器使用を裁く法制度が存在しないという問題です。自衛隊は軍隊ではないため、軍法も、軍事法廷もありません。また自衛隊法でも国外における自衛隊員の違法行為を罰する規定がありません。

 以上のように、武器使用の拡大には大きな危険があると考えられます。

(大野友也)

 

参考文献

・伊勢崎賢治『日本人は人を殺しに行くのか 戦場からの集団的自衛権入門』(朝日新聞出版、2014年)

・集団的自衛権問題研究会「安全保障法制の焦点 論点3 自衛隊員の『安全』と武器使用基準の緩和」世界2015年6月号69頁以下

・長谷部恭男「安保法案はなぜ違憲なのか」世界2015年8月号52頁以下