自衛隊の活動が「他国の武力行使と一体化」するのは、他国の軍隊に対する補給・輸送等(いわゆる後方支援)、それ自体は直接武力行使を行う活動ではないが、他の者の行う武力行使への関与の密接性等から、日本も武力行使したとの法的評価を受ける場合です。こうした活動は、武力行使を禁止する憲法9条の下では許されていません。
この考え方の下で、従来の海外派兵法であるテロ特措法やイラク特措法では、自衛隊は「他国の武力行使と一体化」しない「非戦闘地域」に限定して活動することができるとされていました。「非戦闘地域」とは「現に戦闘行為が行われておらず」、かつ「そこで実施される活動の期間を通じて戦闘行為が行われることがないと認められる地域」のことです。逆にいえば、自衛隊が活動できない「戦闘地域」は、現に戦闘行為が行われている地域だけでなく、活動期間を通じて戦闘行為が行われる可能性のある地域も含まれます。
他方、安保法案中の「重要影響事態法案」と「国際平和支援法案」では、「非戦闘地域」という枠組みが見直され、自衛隊は「現に戦闘行為が行われている現場」では活動できないという規定に改められたことで、「現に戦闘行為が行われている現場」でなければ、活動期間を通じて戦闘行為が行われる可能性のある場所(これまでの「戦闘地域」)でも活動できるように活動範囲が拡大されることになります。そうなると、自衛隊が戦闘行為に巻き込まれる可能性が高まることになりますが、安倍内閣は、状況変化により支援活動場所が「現に戦闘行為が行われている現場」となる場合には活動を休止するから、他国の武力行使との「一体化」は回避されると説明しています(2015年6月9日内閣法制局「他国の武力の行使との一体化の回避について」)。
しかし、このような説明とは裏腹に、安保法案が成立すれば自衛隊の支援活動と他国の武力行使との「一体化」がこれまで以上に進むことが予想されます。活動現場では他国軍との関係で自衛隊だけが支援活動を休止することは困難ですし、すでにイラク特措法の運用時においてさえ、自衛隊がイラクの「戦闘地域」で米軍等の武力行使と「一体化」する支援(空輸)を行っていたケースもあります(2008年に名古屋高裁は、自衛隊の空輸活動を明瞭に違憲と判示しました)。 (澤野義一)
参考文献
水島朝穂『ライブ講義 徹底分析! 集団的自衛権』(岩波書店、2015年)
山内敏弘『「安全保障」法制と改憲を問う』(法律文化社、2015年)