100の論点:34.最近の国連平和活動報告書(2015年6月16日)の内容も含めて、国連平和活動はいまどうなっているでしょうか。

 安保法制をめぐる議論において、国連平和活動とのかかわりでは、いわゆる「駆けつけ警護」が新たに導入されようとしています。国連PKOに派遣された自衛官が、自己防衛だけに武器使用を限定するのではなく、日本人の保護のためなどに武器使用をすることを許そうとするものです。

 これについて政府からは、日本人がより安全になるのだ、NGOの活動も守られるのだ、といった印象を与えることを狙った説明がくりかえされています。しかし国連PKOに派遣された自衛官が、日本人の保護だけを目的にして職場を離れて自由に「駆けつけ」て独自の活動にあたったりするはずはありません。もちろん保護する対象が、日本人である場合もあるでしょうけれども、国連PKOの一部として活動する以上は、日本人であるかどうかは問題にはなりません。

 現在の日本の「PKO法」は、1992年にできました。その内容は、主に冷戦時代の伝統的な国連PKOのあり方を研究した結果をふまえたものです。ところが冷戦が終わってから、国際社会の平和活動は、飛躍的にすそ野を広げ、内容を多岐化していきましたから、PKO法が成立後すぐに現実との乖離を見せ始めたということは、驚くに値しません。「駆けつけ警護」をめぐる安保法制は、日本政府の独自の発案というよりは、国連PKOの変質に追いつこうとする試みでしょう。

 PKO法が前提としていた国連PKOの原則も、変質してきています。それは2000年の『ブラヒミ・レポート』、2008年の『キャプストン・ドクトリン』などの文書を通じて明らかにされてきました。そして過去15年ほどの国連安保理を通じた実際の国連PKO活動を通じて適用されてきました。

 国連PKOの三原則のうち、「中立性(neutrality)」は、「不偏性(impartiality)」と言い換えられています。これによって国連PKOを通じた敵対勢力への攻撃も正当化できるようになりました。「紛争当事者の同意」原則は、「当事者」としての適格性を問い直す作業を通じて、形骸化してきました。「自衛以外の武力の不行使」原則は、「マンデート防衛以外の武力の不行使」として読み替えられて、安保理決議の「マンデート(任務)」にしたがって活動している限りは武力行使をしてよいことになりました。

しかし国連PKOもただ一方的に強硬化しているわけではありません。国連70周年にあわせて今年発表された『国連平和活動ハイレベル独立委員会報告書』は、政治的戦略・準備の重要性を強調しています。

 日本が国連PKOに活発に参加したいのであれば、法整備が必要という意見が出てくるのは不可避ではあるでしょう。ただ、なぜ、どこまで、どのように、という方向性が見えないまま、「日本人を守る」といった的外れな感情論が正当化の議論に用いられるのだとすれば、それは懸念すべきでしょう。(篠田英朗)

 

参考文献

篠田英朗『平和構築入門―その思想と方法を問いなおす』(ちくま新書、2013年)、263頁。

篠田英朗『平和構築と法の支配:国際平和活動の理論的・機能的分析』(創文社、2003年)。