100の論点:15. 世界の軍事費と軍事産業の現状はどうなっているでしょうか。

 軍事費の動向について、ストックホルム国際平和研究所のデータを用いると、次のことがわかります。世界全体の軍事費は1998年以降、増加傾向を示してきていましたが、2011年をピークに減少傾向に転じています。しかしその減少率は決して大きくはありません。例えば2013年は前年比1.9%の減少、2014年は前年比0.9%の減少を示したにすぎません。2014年の軍事費は世界全体で1兆7760億ドルに上ります。また、軍事費は世界全体では縮小傾向にありますが、地域的、国別にみると違いがあります。具体的には、北米、西欧および中欧では軍事費が削減される傾向にありますが、そのほかの地域では増加傾向にあります。

 日本に密接なかかわりのあるところでは、中国の軍事費の急激な増加が関心を集めています。ストックホルム国際平和研究所のデータを見ると、2014年の中国の軍事費は2160億ドルであり、2004年時点での軍事費(636億ドル)と比較すると、約3.4倍に増加しています。この中国の軍事予算は世界第2位、世界の軍事費の12%を占めています。また米国は近年軍事費を減少させているとはいえ、世界で最も多くの軍事費を支出し続けています。例えば2014年の米国の軍事費は6100億ドルで、これは世界の軍事費の34%を占めています。なお世界第2位の軍事費を拠出しているのはロシアです。近年再び軍事費を増加させているロシアの2014年の軍事費は、世界の4.8%にあたる845億ドルでした。

 軍事産業のあり方は、技術革新とグローバル化の進展の影響を受けて変化がみられます。まず、技術革新によって民生用の技術と軍事技術の境界が曖昧になりました。例えば米国はイラクやアフガニスタンでの戦闘で無人攻撃機や無人偵察機を積極的に使用していますが、これらに使用される電子誘導技術や撮影技術は民生部門に転用され、農薬散布や災害時の状況把握のために用いられる無人航空機の開発・普及につながりました。また、近年はロボット兵器の開発も進められていますが、ここではむしろ民生部門で開発された人工知能などのロボット技術の、軍事技術への応用が試みられているといえます。

 そしてグローバル化は、兵器市場と兵器開発の国際化を生み出しています。例えば、米国やロシアなどの先進国が主流である国際兵器市場に、ブラジルやインドなどの新興国が参入を進めています。また、武器開発に必要な部品や技術の調達先も、世界規模に広がっています。このような変化により、兵器開発を行う国家が増加し、兵器の拡散が進む可能性があります。(佐渡紀子)

 

参考文献

Stockholm International Peace Research Institute (SIPRI), SIPRI Yearbook 2014: Armaments, Disarmament and International Security, Oxford University Press, 2014.

Stockholm International Peace Research Institute (SIPRI), SIPRI Yearbook 2015: Armaments, Disarmament and International Security, Oxford University Press, 2015.